発達障害は、脳機能の発達の偏りによって生じる、先天的な精神障害の一種です。近年では、社会人になってから困難や生きづらさを感じる、いわゆる「大人の発達障害」が注目される機会も増えています。
そもそも発達障害にはどのような症状があるのでしょうか。そして、発達障害者を採用する際は、どのようなポイントに注意すれば良いのでしょうか。この記事では、発達障害者の概要や採用時に重視したいポイント、採用事例をご紹介します。
※目次
主な発達障害の種類
発達障害は複数の疾患を総称したものです。ここではまず、発達障害にはどのような種類があるのかみていきましょう。
ADHD(注意欠陥多動性障害)
集中することが難しい「不注意」、じっとしていられない「多動」、思いついたらすぐに行動してしまう「衝動性」という、主に3つの症状が表れる障害です。症状の程度は人によって異なり、3つの症状が同じように表れることは稀な傾向にあります。
例えば「不注意優勢型」は、「集中を保てない」「気がすぐにそれてしまう」「忘れ物やなくしものが多い」といった不注意の症状がメインに表れます。一方で、「多動・衝動性優勢型」は「無意識のうちにからだを動かしてしまう」「感情のコントロールがうまくできない」といった、多動や衝動性の症状が強く表れるのが特徴です。「多動・衝動性優勢型」は行動に表れやすいため、幼少期に発見されるケースも多くありますが、「不注意優勢型」は障害に気付きにくく、大人になり社会に出てから発覚するというケースも少なくありません。
ASD(自閉症スペクトラム)
アスペルガー症候群・自閉症・レット症候群などを含む障害です。以前は「広汎性発達障害」と呼ばれており、言葉の発達などに遅れが生じる「自閉症」は別の障害とされていました。しかし、対人関係の難しさやこだわりの強さなど、共通した症状や特性が多くみられることから、近年ではこれらを一つの障害と捉えられています。
具体的な特性として、「社会コミュニケーションの障害」「非常に限定的で強いこだわり」の2つが挙げられます。前者は、「会話のキャッチボールがうまくいかない」「相手の意図していること・冗談などが理解できない」「表情の変化が乏しい」といった症状が表れます。
一方、後者の「強いこだわり」は、「食べ物の好き嫌いが非常に激しい」「興味があることには時間を忘れるほどにのめりこむ一方で、興味がないことには一切手をつけない」「決められた順序でなければ物事を進められない」といった症状が代表的なものです。
社会生活においては、得意なことを着実にコツコツこなすという特性を強みとして発揮できる人がいる一方で、自分のペースで仕事ができない、報告や連絡がうまくいかないなどの困りごとに発展する可能性もあります。
LD(学習障害)
知能に発達の遅れがみられないにもかかわらず、聞くこと・話すこと・書くこと・計算することといった能力をうまく発揮できない発達障害の一種です。困難が生じるケース別に3つに分かれており、文字については「読字障害(ディスクレシア)」、書くことについては「書字障害(ディスグラフィア)」、計算については「算数障害(ディスカリキュア)」と呼ばれます。
「学習障害」という名前だけをみると、読み書きと話すことが全般的に苦手なのかと思いがちですが、どの領域にどの程度の困難が生じるかは人によって異なり、一様ではありません。たとえば、「文字を書き起こすことだけが苦手」という人もいれば、「読み書きが苦手」というパターンもあります。
発達障害者の採用の際に重視したいポイント
障害者雇用促進法の改正により、発達障害を含む精神障害者が法定雇用率の対象となりました。これにより、発達障害者の雇用機会は増加の一途をたどっています。そこでここでは、発達障害を持つ求職者を採用する際に着目すべきポイントをご紹介します。
障害を受容していること
発達障害にかかわらず、精神障害者全般を雇用する際にいえることですが、求職者自身が障害を受け入れているかどうかは、把握すべき重要な要素です。特に発達障害はその特性上、理解が得られない職場環境の場合、「空気が読めない」「わがまま」「何度教えても覚えられない」などといったマイナスの印象を持たれがちです。他者からこういった評価を受け続けていると、障害を持っていることを心の底から受け入れられなくなることもあるでしょう。そのような状態では、本来できるはずの業務ができなくなったり、日常生活でも支障をきたしたりしてしまいます。
こういった事態を避けるためにも、障害者自身が持ち合わせている障害についてしっかりと理解し、受け入れていることが重要です。自分の障害特性を踏まえて適切に行動したり対処できたりすれば、適性のある業務に従事したり、同僚・上司との認識のずれや誤解を回避したりすることができます。また、自身の特性についてしっかり説明してもらうことは、本人のニーズに適した合理的配慮の提供に繋がります。
職務能力がマッチしていること
発達障害を持つ人は、脳の働きに偏りがみられることから、障害を持たない人と比べて得意・不得意の差が大きい傾向にあります。実際に、発達障害の判定を下す指標のひとつとされる「WAIS」という知能検査では、ワーキングメモリや言語理解などの各能力における評価の差が大きいほど、発達障害の疑いが大きいと判断されます。
誰しもが向いていること・向いていないことはあるものです。しかし、発達障害の特性による「不得意なこと」は大きなストレスを伴うことが多く、それに向き合い続けることで早期離職につながる可能性も否定できません。そのため、発達障害を持つ人にとって、希望している職種が自分の特性とマッチしているかを把握することは非常に重要なポイントなのです。
例えば、ASDの特性のみが表れている人には「物事や方法、道筋などに自分だけの強いこだわりがある」「暗黙の了解や協調をはじめとしたコミュニケーションが苦手」という一面があります。この場合、毎日やることや対象となるもの・人が変わったり、臨機応変に対応しなければならなかったりする職種は「マッチしていない」ことになります。
一方で、「興味を持った分野には粘り強く向き合える」という特性を生かし、専門性の高い技術や知識を生かして働く人も少なくありません。また、ルーティン作業にコツコツ取り組むという強みを生かすことができる職種も「マッチしている」といえるでしょう。
ただし、個々の発達障害にははっきりとした境界線があるわけではありません。ASDとADHDを併発している障害特性もあれば、ADHDをメインとしつつLDの兆候がみられるという人もいます。どのような特性があるかは人それぞれなので、「ADHDだからこれが得意」「ASDだからこれはダメ」などと障害の種類によって判断するのではなく、その人自身の能力や特性を重視することが重要です。
安定した就労を行えること
精神障害がほかの障害と比較して就労の継続が難しいポイントは、あるとき調子が良くなったと判断し職業活動を始めても、何らかの原因で症状が再発したり悪化したりする可能性があるという点です。
一方で、発達障害は先天的な脳機能の偏りが原因で発生する障害なので、発達障害の特性だけでは極端な変化が生じることはありません。実際に、障害別の障害者雇用による職場定着率のデータをみてみると、1年後の職場定着率は発達障害者がもっとも高いという結果になっています。
ただし、「二次障害」と呼ばれるその他の精神疾患を併発している発達障害者の場合は、より精神的なケアが必要です。特に大人になってから発達障害の診断を受けた人は、二次障害の症状が顕在化してから精神科を受診し、実は発達障害が大元の要因だったと発覚することもあります。二次障害を併発した発達障害者は、まずは二次障害の治療に専念し、余裕を持って就労できる状態まで回復させることが重要です。
発達障害者の採用事例
それでは、すでに発達障害者を採用している企業では、どのような工夫が行われているのでしょうか。ここでは4つの事例をご紹介します。
富士ソフト企画株式会社
富士ソフト企画株式会社は、ソフトウェアメーカーである富士ソフト株式会社の子会社として1991年に設立され、2000年に特例子会社に認定されました。当時は身体障害者を中心とした採用方針だったものの、次第に知的障害者や発達障害者についても雇用を開始しました。
発達障害者の雇用当初は障害に対する理解が及ばず、コミュニケーションの面で苦慮したり従業員同士のトラブルに発展したりしていたようです。そこで、社長を含めた幹部従業員が外部研修を受講し、その内容を各部署に浸透するよう内部研修を実施しました。また、発達障害者支援センターとの連携を通して特性に関する理解を深め、柔軟な対応を実現することを試みました。
さらに、発達障害者自身の障害理解を深める目的で、日々業務で起こった悩みを「作業ノート」に記録し、面談の際にカウンセラーから助言を受けるようにしています。この取り組みにより、障害者自身が悩みに対する対処法を学び、より効率的に業務に集中できるようになったとのことです。
リゾートトラスト株式会社
会員制のホテルやレストラン、ゴルフ事業など多角的に事業展開を行うリゾートトラスト株式会社は、ハローワークから紹介を受けた人材をきっかけに発達障害者の雇用を開始しました。
障害者支援センターと連携をとりつつ、まずは就労時間の調整を行うことから始めました。発達障害の特性によっては、疲労感が強く表れることから、長時間の就労が困難なケースも少なくありません。そこで、まずは所定労働時間を週12時間とし、業務に慣れていくにつれて徐々に就業時間を増やす工夫で、職場定着を目指しました。
また、発達障害を持つ就労者が次第に増加してきたことを受け、発達障害の特性をより生かせる新たな業務の創出も行いました。具体的には、派遣会社や外部に発注していたデータ入力や清掃作業、名刺作成などの業務を内製化し、併せてマニュアルも整備して活躍の場を広げています。
新潟ワコール縫製株式会社
新潟ワコール縫製株式会社は、大手アパレルメーカーである株式会社ワコールの子会社として、パジャマや下着の製造や点検作業などを主な事業としている企業です。採用実績のある高等学校やハローワークからの要請により、トライアル雇用を経て発達障害者を採用しました。
具体的に取り組みとして、午後の決まった時間に集中力が途切れがちになる障害者に対しては、単一作業ではなく複数作業を任せました。また、併せて「目標達成シート」を活用し、作業に対する意識を高める工夫を講じています。
さらに、継続勤務に対するモチベーションを保てるよう、「業務内容を広げたい」という発達障害者本人の要望を聞き入れました。従来は補助的な業務を中心に任せていましたが、助成金を利用して新たな機械を設置し、発達障害があってもミスなく業務に集中できる環境を構築しています。
トーマツチャレンジド株式会社
有限責任監査法人トーマツの特例子会社として、2006年に設立したトーマツチャレンジド株式会社では、約20名の発達障害者を雇用しています。具体的な業務としては、グループ会社内でのメール便業務やパントリー、ラベル貼りなどの軽作業を行っています。
短期記憶の処理が難しいという特性があり場合、口頭だけの指示では思い違いや忘れてしまうことがあり、スムーズに作業を遂行できないという課題が生まれます。そこで、作業指示をする際には画像を取り込んだマニュアルを作成し、口頭で説明した後に復唱してもらう、さらに質問があった場合にはマニュアルをもとに説明を行うといった指導スタイルを徹底させました。
また、トラブルが起きたときにうまく伝えることができなかったり、そもそもその問題をうまく解釈できていなかったりする課題もありました。そこで、定期的な面談を通して、成長できたことや悩みなどを共有し、タイムリーな問題解決を図っています。
まとめ
発達障害は精神疾患に含まれているものの、先天的な障害であるため、ほかの精神疾患とは異なる部分が多くあります。特性への理解と環境さえ整っていれば、比較的勤怠も安定しやすい障害であるといえるでしょう。また、高齢化に伴い身体障害者雇用の規模縮小が懸念されるなか、発達障害者による雇用の拡大は、慢性的な人材不足に悩まされる企業にとってしっかりと検討したいポイントです。
H&Gでは、発達障害をはじめとする障害者雇用に関するノウハウを蓄積しています。障害者雇用をご検討の方は、長期雇用実績のあるH&Gまでぜひお気軽にご相談ください。