生産人口の減少が続く日本では、さまざまな業種・職種で人材不足が課題となっています。特にIT業界におけるエンジニア不足は深刻で、2019年の経済産業省の調査では、2030年には最大で約 79 万人のIT人材が不足する可能性があると試算されているほどです。
このようななか、IT業界における障害者雇用はどのような状況になっているのでしょうか。
この記事では、IT業界の障害者雇用の現状や課題について詳しく解説します。
※目次
IT業界の障害者雇用の課題
結論から述べると、IT業界における障害者雇用は課題が多く、他の業種と比較しても雇用率はあまり高くありません。「令和2年障害者雇用状況の集計結果」によると、IT・情報通信業の、産業別障害者雇用率達成企業割合は全業種のうち最下位となっています。では、IT業界のどのような傾向が障害者の雇用を妨げているのでしょうか。
専門的なスキルが必要
IT業界に限らず、業務に専門的な知識が求められる、いわゆる「専門職」と呼ばれる業種では、障害者雇用枠での求人が少ない傾向にあります。知的障害や一部の精神障害の特性として、できること・できないことの差が大きく、業務内容が限られることは少なくありません。また、体調・精神面の安定や、継続的な勤務に不安があることからも、責任の重い業務や、専門的な業務は任せられないと判断されてしまう場合が多いようです。障害者雇用枠で募集する業務内容に、軽作業や補助業務が多いのはこのような理由からでしょう。そのため、専門的なスキルが必要なIT業界では、障害者雇用を推進しにくいという状況がつくられてしまったと考えられます。
しかし、IT企業であっても、ほかの業種と同様に障害者雇用の義務は課されているため、今後は障害者雇用に本腰を入れなければなりません。障害者のなかには、障害によって生じる不便や困難を取り除けば、専門分野で活躍できる人も多く、抜きんでた集中力や正確性を発揮する人もいます。IT企業には、障害への理解を深め、障害者が活躍できる土壌をつくることが求められています。
勤務形態の問題
日本のIT業界の大きな特徴に、「客先常駐」という働き方があります。客先常駐では、顧客企業におけるシステム開発などのプロジェクト期間のみエンジニアを常駐させ業務を請け負います。プロジェクトが終了すると、ほかの顧客企業に常駐する、という流れを繰り返す勤務形態です。このような働き方は、IT業界ではもはや一般的になっていますが、障害者雇用に取り組むうえでは大きなハードルとなっているようです。障害者のなかには、環境の変化や臨機応変な行動が苦手な人も多く、勤務場所や仕事内容、チームメンバーが都度変化する環境に対応できないケースは少なくありません。
また、常駐勤務している立場ですので、顧客企業に対して職場環境のバリアフリー化や、障害特性に応じたサポートや配慮などは求められません。このように、エンジニアとしての能力や業務内容以前の問題として、勤務形態によって障害者雇用の推進が妨げられている側面があるのです。
IT業界の分類
IT業界やエンジニアとひと言でいっても、携わる業務はさまざまです。IT業界の障害者雇用を考えるにあたっては、どのような職種が存在するのか知っておくことは大切でしょう。ここでは、ITにかかわる職種を4つに大別し、役割や業務内容を開設します。
ソフトウェア業界
ソフトウェアは、コンピューターなどの電子機器を作動させるためのプログラムの総称です。コンピュータのなかの、人間でいう「脳」にあたるソフトウェアのことを「OS(オペレーティングシステム)」と呼びます。OSは、コンピュータの基本的な動作を全体的に統括する役割を持ちます。また、OS上で目的に応じた細かい動作させるためには、「アプリケーションソフトウェア」が必要です。近年はスマートフォンの普及や、さまざまな作業・業務のIT化が進んでいることで、多種多様なソフトウェアが次々と開発されています。
プログラマー
ソフトウェアを実際に開発する職種が、プログラマーです。ソフトウェアは、無数のソースコードによって構築されており、このソースコードはプログラミング言語を用いて人の手で書かれます。プログラマーとは、プログラミング言語を活用し、設計書の通りにソフトウェアをつくり上げていく職種です。Webサイト、ゲーム、アプリケーション、クラウドサービスなどによって、使用するプログラミング言語や業務内容は変わります。
SE(システムエンジニア)
クライアントからの要望に合わせてシステムを設計し、開発におけるいわゆる「上流工程」を担う職種が、SEです。開発における技術力だけでなく、予算や人員確保などのマネジメント能力が必要になることも多く、システム開発に総合的にかかわることになります。
ハードウェア業界
ソフトウェアを作動させるためには、パソコン本体やキーボード、マウスなどの周辺機器がなければいけません。ソフトウェアがブレーンを指すなら、ハードウェアはいわば「身体」の部分です。ハードウェア業界は、これらの外郭をなす電子機器の設計、構築、製造を担っています。
組み込み系エンジニア
組み込み系エンジニアとは、家電製品や工場に設置されたセンサーなど、独立した機械の中に組み込まれた小さなコンピューター(マイコン)を制御する「組み込みシステム」を開発する職種です。パソコン上で動くソフトウェアと違い、マイコンはCPUやメモリなどのリソースが潤沢ではないため、コンパクトなプログラミングが求められる点が大きな特徴です。家電メーカーなどで活躍してきた組み込み系エンジニアですが、最近ではIoT分野の開発が盛んに行われていることから、需要が拡大しています。
インターネット業界
最近では、さまざまな企業がインターネット上で経済活動を行うようになりました。そのため、自社のWebサイトやECサイトを持つ企業は多く、関連する広告やサービスもインターネット上で展開されています。インターネットは、企業向け・個人向けを問わず、さまざまな商業機会獲得の場となっています。
Webエンジニア
Web上で利用されるシステム・アプリケーションなどの設計や開発、プログラミングを行う職種です。Webエンジニアの仕事は大きくバックエンドとフロントエンドに分類できます。バックエンドエンジニアは、OSやサーバーなど、ユーザーから見えにくい部分の開発を行い、フロントエンドエンジニアは、ユーザーから見えるブラウザ部分をWebデザイナーの指示書に従って開発をするのがおもな業務内容です。
Webデザイナー
個人やクライアントからの依頼をもとに、Webサイトのデザインを企画・担当・制作する職種です。全体の構成を考え、クライアントからの要望をいかに盛り込みながらユーザーにとって使い勝手のよいサイトを制作できるかが大きなポイントです。
Webディレクター
Webコンテンツを制作するプロジェクトにおいて、指揮や案件の管理を行う職種です。Webデザイナーやプログラマーなどをまとめ、プロジェクト全体の進行管理、品質管理を担います。そのほか、Webコンテンツ企画や提案を行う「プランナー」としての業務を兼ねていることもあります。
情報処理サービス業界
企業における情報システムの導入を支援する業務です。近年では、さまざまな業界でDX(デジタル・トランスフォーメーション)が推進されており、これまで手作業で行っていた業務が次々とシステムに置き換えられています。また、社内ITインフラの整備や、セキュリティ対策など、一般的な企業において、情報処理サービスの利用は欠かせないものになっています。
ITコンサルタント
顧客企業におけるIT関連全般に関するアドバイスや、システム導入の提案を行うのがITコンサルタントです。顧客企業の業務課題をリサーチ・分析したうえで、解決に向けた提案から実行支援までを行います。ITコンサルタントが一連の流れをすべて担うのではなく、実際の開発・導入をアウトソーシングし、プロジェクトの上流工程を担うのが一般的です。
セールスエンジニア
「エンジニア」という職種名ですが、実際の業務内容は営業職に近く、顧客対応や要件整理などについて営業職をサポートするという業務内容です。例えば、自社のソフトウェアや機器について相手先に製品説明や実演・提案を行ったり、不具合が発生した場合にはその対応をしたりすることもあります。そのため、自社製品に対する専門的で豊富な知識が要求される職種です。
IT業界で必要とされる主なスキル
IT業界への就労を目指すにあたって、習得しておきたいスキルにはどのようなものがあるのでしょうか。
プログラミングスキル
システムを実際に構築するためには、プログラミング言語の習得は必須です。プログラミング言語には、PHP、Java Script、Pythonなどさまざまな種類があり、それぞれ使用目的、難易度が異なります。自分がどの分野で活躍するプログラマーになりたいかなどを良く考え、修得する言語を選ぶと良いでしょう。上に挙げたプログラミング言語は汎用性が高いため、習得することで幅広い分野での活躍が目指せるでしょう。
コミュニケーション能力
「IT業界」というと、パソコンと一日中向き合い、1人で黙々と作業するイメージが強いかもしれません。もちろんそのイメージ通りの働き方をしているエンジニアもいますが、チームの仲間と連携しながら開発を進めたり、顧客とのコミュニケーションが重要になったりする場合は少なくありません。そのため、「報連相」など基本的なビジネスマナーを心得ておくことはとても大切です。
事務処理能力
IT業界で働くうえで、軽視されがちなのが事務処理能力です。しかし、見積もり書や要件定義書、報告書など、エンジニアがかかわらなければならない事務作業は少なくありません。日頃から情報をわかりやすく管理し、手早く書類を作成するなど、事務処理能力は大切な要素になります。
IT業界の障害者雇用を拡大するには
現在、障害者雇用率の達成企業が最も低いIT業界において、障害者雇用を推進するためには、どのような取組みが必要なのでしょうか。
職業準備性を重視する
障害者雇用に積極的でない企業においては、「この仕事は障害者にはできないから」という思い込みがあるケースも珍しくありません。特に、専門的業務を行う職場や忙しく余裕がない職場では、障害者雇用を敬遠しがちです。
しかし、健常者であっても苦手分野では能力が発揮できなかったり、体調不良によって突然の休みを取ったりすることは十分考えられます。むしろ自身の障害特性をよく理解し、適宜対処しながら働く障害者のほうが、安定的にパフォーマンスを発揮できる可能性は高いかもしれません。もちろん、障害特性によって業務内容や勤務日数の制限などは生じるため、健常者と全く同じ働き方は難しい場合が多いでしょう。しかし、限られた範囲であっても、安定的に勤務し、能力を発揮できるのであれば、十分な戦力になってもらうことが可能です。
このように、働くうえで必要とされるスキルを兼ね備えているかどうかを、「職業準備性」と呼びます。職業準備性には、仕事への理解、生活や体調の安定、作業遂行能力、対人関係のスキルなど、働くうえでの基礎的な資質が含まれます。障害者を雇入れる際は、障害の種類や程度で判断するのではなく、職業準備性を重視すると良いでしょう。
障害への理解を深める
障害者を雇用するうえで、障害者本人が自身の症状や障害特性をしっかりと理解していることは重要な判断ポイントになります。一見、症状が軽そうで、障害者本人も障害を深刻に語らない場合、企業側は問題なく採用できると判断しがちです。しかし、このような人は、裏を返せば、自身の障害特性を理解していない、困った時の対処法がわからない、などの問題を抱えている場合も少なくありません。企業側の障害への理解が足りないと、採用時にその人となりを見抜けないばかりか、配慮やサポートの面で不足が生じてしまうでしょう。このように、障害者と企業側双方の障害理解はとても大切なのです。
障害を理解することで、障害者ができること・できないことの線引きがしやすくなり、さまざまなトラブルを事前に回避することができます。一度話しただけではわからないことも多いため、入職後は定期的に面談やコミュニケーションの機会をつくり、そのときの状況に応じた対応をしていきましょう。
業務内容や体制の見直し
IT業界の業務は多岐にわたります。障害者雇用推進の第一歩は、これらの業務のうち、障害者に任せられる業務を切り出していくことでしょう。業務の切り出しは、簡易な業務に限定する必要はありません。マルチな行動が苦手なだけで、1つの分野に対し高い専門性や知識を発揮できる障害者も少なくないからです。まずは業務フローを細分化し、1つ1つ取り組みやすく整理することが大切です。その後、業務の種類や傾向によって、どのような人なら担当できるのかを想定しておくと良いでしょう。
まとめ
多くの企業で障害者雇用が取り組まれるなか、障害者雇用と相性の良い職種と、良くない職種が存在することがわかってきました。しかし、IT業界のように、実際の業務内容ではなく、勤務形態や企業側の意識が課題になっている場合も少なくありません。取り組み方次第で、どのような業界であっても障害者雇用を進められるといってよいでしょう。
実際に、パソコンを使った仕事は多くの障害者に適しているという見方もあり、障害者雇用に取り組むIT企業が拡大すれば、IT業界で活躍する障害者は大きく増加するかもしれません。
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