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【コラム#09】障害者雇用促進法における合理的配慮。提供手順や具体例もご紹介します

2016年4月、障害者雇用促進法の改正により、企業の障害者に対する合理的配慮の提供が義務化されました。企業は、障害者雇用率の達成と併せて、障害者を迎え入れるための準備・対策に力を注がなければならない時代に入っています。
必要となる配慮は、障害者が抱える特性により変わってきます。そこで、今回は障害者雇用促進法における合理的配慮について、提供手順や具体例を解説していきます。

 

※目次
1.障害者雇用促進法とは
2.合理的配慮とは
3.企業による合理的配慮提供の流れ
4.【障害別】企業による合理的配慮の例
5.まとめ

 

 

障害者雇用促進法とは

 

 

障害者雇用促進法は、正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といいます。1960年に制定された「身体障害者雇用促進法」を基盤としており、「障害者の雇用の安定的実現を目指すための具体的な方策を定める」という趣旨のもと、対象となる障害者の範囲や企業が負うべき義務の拡大を目的とした改正を経て、現在に至ります。

現在、多くの企業の間でその達成が関心となっている障害者の法定雇用率や「合理的配慮」の提供義務などは、障害者雇用促進法に基づく制度・措置の代表例です。

 

対象となる障害者

 

障害者雇用促進法全般に適用される「障害者」については、本法第2条第1項において、身体・知的・精神障害やその他の心身の機能障害により職業生活に制限を受けたり、著しく困難であったりする者と定められています。

しかし、雇用義務制度の対象となるのは「障害者手帳を持つ人」に限定されています。したがって、現行制度では、手帳を取得するほどではない、あるいは精神疾患を抱えていながら医師の診断を受けられない障害者を雇用率算定の対象とすることはできません。これら手帳を持たない障害者に対する支援をどう充実させていくのかは、今後の大きな課題です。

 

雇用の義務が発生する企業

 

障害者雇用促進法第43条第1項では、一定数以上の労働者を雇う民間企業、国および地方公共団体に対しての「障害者雇用率(法定雇用率)」が定められています。また、2021年3月1日から法定雇用率が以下のとおり0.1%引き上げられています。

 

・民間企業:2.3%

・国および地方公共団体等:2.6%

・都道府県等の教育委員会:2.5%

 

法定雇用率未達の企業には障害者雇用納付金の納付義務が生じ、常用労働者100人を超える企業の納付金は、不足する雇用障害者1人当たり月額5万円です。

 

制度・措置

 

障害者雇用促進法は、障害者の雇用の安定的実現を目指すための具体的な方策を定めることを趣旨としています。具体的には、「雇用促進」「健常者と同等の機会および待遇の確保」「職業生活における自立」に関する施策をバランスよく実施していくことを目指すものです。そして、具体的な方策の柱となるのが、次の5つの制度・措置です。

 

企業に対して課される制度・措置

・障害者の雇用義務

・差別禁止と合理的配慮の提供義務

・障害者職業生活相談員の選任

・障害者雇用に関する届出義務

 

障害者本人に向けた措置

・職業リハビリテーションの実施

 

2020年改正のポイント

 

2020年4月1日の改正により、障害者雇用促進法では新たに2つの措置が実施されました。

 

・特例給付金の支給

特定短時間労働者(週の所定労働時間が20時間未満)に該当する障害者を雇用する事業主に対して、その雇用人数に応じた給付金が支給されます。事業主を金銭的に支援していくことで、障害特性から継続的に20時間以上就労することが難しい人達の雇用機会を確保する狙いがあります。

 

一方、法定雇用率カウントの基礎となる常用労働者の「週20時間以上の労働者」という対象要件は、変更されていません。そのため、当該障害者の数を法定雇用率に反映させることはできず、雇用率を達成できなければ障害者雇用調整金などの支援も得られません。

 

・優良事業主の認定制度の創設

常用労働者300人以下の中小企業を対象とし、障害者雇用に対する取り組みや成果が一定以上の基準をクリアした場合に、申請によって優良事業主として認定する制度です。障害者雇用率が伸び悩む現状の打破を目的としており、優良事業主として認定されれば障害者雇用への取り組みはもちろん、「認定マーク」によるダイバーシティや働き方改革への積極性のPR効果も期待できます。こうした企業の姿勢は、多様な人材の確保にも繋がるでしょう。

 

 

合理的配慮とは

 

 

昨今、障害者雇用の現場において急速にクローズアップされてきているのが、「合理的配慮」という言葉です。障害者雇用における合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同様に働く機会や待遇を得られるように、1人ひとりの特性から生じる支障や困難さを取り除いていこうとする措置のことをいいます。

 

職場での合理的配慮を検討する際は、配慮の中身や程度が個々の障害者の特性はもちろん、障害者の置かれる環境や職場の人間関係により異なることを認識しておくことが大切です。したがって、企業側には、新たに迎え入れる障害者とのコミュニケーションを積極的に行い、職場としてどのような配慮が提供できるのか具体的に示していく姿勢が求められます。

 

ここでは、合理的配慮が広まった背景や法的根拠などについてみていきましょう。

 

合理的配慮が広まった背景

 

合理的配慮が広く知られるようになったのは、2006年に採択された国連の障害者権利条約において、合理的配慮の必要性が謳われたことを契機とするのが定説です。

 

障害者権利条約は、「Nothing about us without us(私たちのことを私たち抜きで決めないで)」というスローガンの下、実際に多くの障害者たちが主体的に策定に関わりました。この条約を通じて、障害者自らが、何よりもまずは障害の当事者としての意思表示が大切であること、障害の程度や環境に応じた対応が必要なことを世界中に訴えかけました。

 

障害者権利条約への批准を契機として、日本国内でも法整備と制度の創設・改革が進められ、今日に至っています。

 

合理的配慮の法的根拠

 

根拠となる法律としては、「障害者雇用差別解消法」と「障害者雇用促進法」の2つが挙げられます。まず、障害者雇用差別解消法については、民間企業に課される合理的配慮の提供義務は雇用期間以外を対象として、「努力義務」のみが課されています。

 

他方、障害者雇用促進法は、2016年の同法改正によって民間や国・自治体を問わず法的義務としています。

 

「過度の負担」の判断基準

 

企業が障害者を雇用した際に問題となるのが、「どこまで配慮すれば合理的と言えるのか」ということです。その際の判断基準となるのが、「過度な負担」に該当するかどうかです。企業は、以下の要素を考慮して負担の多寡を判断します。

 

・事業活動への影響の程度

・実現困難度

・費用負担の程度

・企業の規模

・企業の財務状況

・公的支援の有無

 

罰則

 

合理的配慮が提供されなかったことに対する罰則規定などは、特に設けられていません。しかし、実際になされた配慮措置や提供義務の不作為については、訴訟に発展すれば企業が損害賠償責任を負うこともあり得ます。

 

また、義務の違反に関しては、行政指導により雇用環境の改善を図るなど、法が目指す「障害者が継続して勤務できること」を最優先にした対応が求められます。

 

 

企業による合理的配慮提供の流れ

 

 

個々の障害者が職場に溶け込んで働きがいを得ていくためには、実現可能かつ効果的な配慮を続けていくことが欠かせません。ここでは、企業が合理的配慮を展開していくための流れを解説していきます。

 

本人からの申し出

 

まず、「本人が求めている配慮」を具体的に見極めるため、本人にどんな配慮が必要なのか申し出てもらうことから始めます。ただし、障害者によっては申し出ることの必要性を理解していない、あるいは採用に不利になるとの懸念から必要な配慮について話してくれないこともあります。したがって、企業は採用にあたっては十分な時間的余裕を設けておき、障害者本人が必要とする配慮について話しやすい雰囲気作りを心掛けましょう。

 

話し合い

 

話し合いでは、具体的な措置に対する本人の提案を基に、実施可能な措置について双方が納得できる内容を目指すことが大切です。配慮の中身や実現可能性の判断とともに、配属部署にどのように周知するかも決めておくとよいでしょう。

 

合理的配慮の提供

 

話し合いで配慮の内容についての合意が得られても、現場との情報共有がうまくいかず配慮が適切に提供されない可能性もあります。

 

こうしたリスクを避けるには、社内ルールを作成したうえで、広く社内全体で共有しておくことが大切です。また、サポート担当社員を設置したり、部署内のフォロー体制を築いておいたりするのも効果的です。

 

提供内容の評価と改善

 

時間の経過、あるいは状況や障害の変化により、求められる配慮の内容や措置は変わっていきます。時季や周囲との人間関係に左右される場合もあるため、企業は変化に応じた配慮内容の更新を行う必要があります。そのため、定期的なモニタリングを通じた、見直し・改善フローの実施が不可欠です。

 

 

 

【障害別】企業による合理的配慮の例

 

 

ここでは、実際に企業によって提供されている合理的配慮の例をご紹介します。

 

精神障害

 

原因となる障害特性が多岐に渡るために、必要とされる配慮もまた様々なのが特徴です。過度の不安や緊張が出やすい傾向があることから、迷いや不安を持たずに業務に取り組める配慮が求められます。

 

具体的には、業務遂行時は本人のメモとマニュアルを併用して進めてもらう、コミュニケーション面のサポートを行うなどの配慮が挙げられます。

 

肢体不自由

 

行動に制限がかかる特性上、できるだけ移動が少ない、あるいはストレスがかからないような配慮が求められます。

 

具体的には、業務や打ち合わせ場所のアクセス面への配慮、あるいは必要書類や備品を取り出しやすい位置に置くなど、身体的負担を軽減する措置が行われています。

 

視覚障害

 

障害の程度により見え方や見える範囲が異なりますが、音声読み上げソフトなどのツールを使った指示出しや説明により、文字情報を補強する措置が有効です。また、誰と話しているのか迷わずに済むように、声掛け時は必ず名前を名乗ってから話し始めるなどの配慮があると安心感を与えられるでしょう。

 

聴覚・言語障害 

 

業務を遂行する際は、筆談や手話はもちろん、メールやチャットなどのビジネスコミュニケーションツールの活用が効果的です。また、最近では、音声を文字化するアプリを使ったやりとりも活発になってきています。

 

発達障害

 

読み書きや計算、コミュニケーション、あるいは集中力の持続など、特定の行動や場面に困難を抱えるという特性があります。そのため、採用時に必要となる配慮の聴き取りをしっかりと行うことが大切です。

 

予定変更による心理的な混乱を避けるために、作業工程や期限の伝達は早めの伝達を心掛けましょう。また、ホワイトボードに指示を書いたり、指示書を作成したりして、口頭のみの伝達による失念やミスを防ぐのも有効です。

 

知的障害

 

多くの場合、物事を判断すること、あるいは場の空気をつかむことが難しいという特性があります。そのため、指示は極力具体的かつ曖昧さをなくしたものであることが重要です。イラストや図表を活用したマニュアルを作成したり、疑問点や困りごとが生じたときには専任の担当者がすぐに対応できるようにしたりといった配慮が必要です。

 

 

まとめ

 

 

障害者の雇用の安定的実現を目指すための法律である障害者雇用促進法は、障害者の雇用機会の拡大を目指して年々拡充されています。そして、障害者雇用の取り組みで重要なのが、法的義務化された合理的配慮です。合理的配慮とは、障害者が障害のない人と同じように社会参加できるようサポートしていこうという考え方です。

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