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【コラム#22】業種別の障害者雇用状況を解説!事例からも成功のポイントを学ぼう

日本では、「障害者雇用促進法」などの法令をはじめとして、行政が主体となって障害者雇用を推進しています。このような政策は徐々に効果を発揮しており、社会全体を見ても、障害者雇用に関して門戸を広げている企業は年々増え続け、人々の意識にも変化が見られるようになりました。

しかし、「障害者」とひとくちに言っても、身体・知的・精神障害者など、それぞれの障害特性や症状は多岐に渡りますから、どのような職業が適しているかはすぐに判断できるものではありません。しかし、一般的に障害者雇用に適している業種を知っておくことは、障害者を雇入れる際には参考にすることができます。

 

この記事では、業種別に見た障害者雇用の現在の状況や、実際に障害者雇用を推進している企業事例などもふまえて障害者雇用の企業側ノウハウをお伝えします。

 

※目次

  1. 障害者雇用率の達成状況
  2. 業種から考える障害者雇用率
  3. 障害者が働きやすい職種
  4. 障害者を雇用するために利用できる支援機関
  5. 障害者雇用の成功事例
  6. まとめ

 

 

障害者雇用率の達成状況

 

 

近年、日本における障害者雇用は着実に広がりを見せています。障害者雇用者数は2004年から17年連続で増加しており、2004年当時は25万人強であったのに対し、2020年度は58万人に迫るなど、2倍以上に増加しました。

 

ただし、企業が雇用すべき障害者の割合である障害者雇用率の企業達成状況の推移を見てみると、ここ数年は数値が乱高下していることがわかります。これは、障害者雇用率が数年ごとに引き上げられているためと考えられています。障害者雇用率が引き上げられた2013年度、2018年度は、それぞれ同様に企業達成率に大幅な落ち込みがみられ、これは障害者雇用率に対して企業の対応が間に合わなかったための未達成と考えられるからです。直近では、2021年3月に障害者雇用率が引き上げられたことから、これまでの傾向を踏まえると2021年度の達成状況もマイナスに転じるのではないかと予想されます。

 

また、もうひとつの大きな要因として、新型コロナウイルスの影響があります。ハローワークの統計によると、障害者雇用の新規求人数は前年比で36.1%減少し、解雇者数も16.0%の増加となりました。一般労働者と比較すると、障害者の就職件数や就職率の減少幅は、小規模に留まっているものの、就業前実習の延期・中止や、新規採用を見合わせる企業も少なくないというのが現状です。このように、一年以上にわたって新型コロナウイルスの影響が続いていることから、今後障害者雇用の促進にも、若干の鈍化傾向がみられるのではないでしょうか。

 

出典:

障害者雇用率の0.1%引上げの時期について(案)

令和2年 障害者雇用状況の集計結果

 

 

業種から考える障害者雇用率

 

 

次に、厚生労働省のデータを参考に業種ごとの障害者雇用達成率の変化を見てみましょう。

 

出典:令和2年 障害者雇用状況の集計結果

 

 

障害者雇用率達成企業が多い業種

 

業種別のデータを見ると、障害者雇用率達成企業の割合および実雇用率がともに最も高かった業種は、「医療・福祉業」という結果でした。医療・福祉業は、業界全体に障害を持つ人への知識や理解があり、雇い入れの際の環境整備にも柔軟に対応しやすい業種であることが雇用率達成の要因に挙げられるでしょう。続いて、「農・林・漁業」「生活関連サービス・娯楽業」「電気・ガス・熱供給・水道業」「運輸・郵便業」と続いています。障害者雇用というと、これまでは第一次・第二次産業の業種が目立っていましたが、近年では第三次産業となるサービス産業にも比率を伸ばしており、より幅広い業種で障害者が受け入れられていることがわかります。

 

障害者雇用率達成企業が少ない業種

 

反対に、障害者雇用率の達成が少ない業種には、どのようなものがあるでしょうか。達成企業の割合が最も低かった業種は、「情報通信業」で、次いで「学術研究・専門・技術サービス業」「不動産業」「教育・学習支援業」と続きました。これらの業種では、専門的な知識や技能が必要になるため、障害者を雇入れるにしても、職種や人数が限られてしまうという事情があるようです。一方で、障害者雇用率の達成企業数が少ないとはいっても、実雇用率および障害者雇用率達成企業数はどちらも年々上昇していますから、今後の伸びしろが期待される業種でもあります。

 

業種によって雇用率が伸び悩む原因

 

業種別の障害者雇用率を見てみると、いわゆるホワイトカラーとよばれる、専門的なスキル・知識が必要な業種では、障害者雇用率が低いという傾向があることがわかります。企業が障害者求人で人材を採用しようとしても、スキル面でなかなか自社に見合った人材が見つからないという点が大きな課題となっているようです。

 

また、勤務形態によって障害者雇用が難しくなるケースも散見されます。特に情報通信業では、メンバーの入れ替えや転勤・出向・客先常駐など、勤務地の変更があるため、障害者が落ち着いて働けないという職場も少なくありません。知的障害者や発達障害者にとっては、頻繁な環境変化や、臨機応変な対応を苦手としている人も多く、事業形態や勤務形態が障害者雇用に向いていない場合は、障害者雇用が推進しづらい状況が発生するでしょう。

 

 

 

 

障害者が働きやすい職種

 

 

では、障害者にとって働きやすい仕事には、どのようなものが挙げられるのでしょうか。身体障害者の場合は、職場におけるバリアフリーなど、環境的な課題さえクリアできれば、多岐に渡る業種で活躍することが可能です。しかし、知的・精神障害者にとっては、向いている業務内容であっても、働き方や環境面をしっかりと吟味していく必要があります。ここでは、障害者雇用をしやすいといわれる職種について、解説していきます。

 

事務職

 

事務職といっても、一般事務から専門性の高い医療事務・貿易事務など、幅広い業務が存在します。なかでも一般事務は、未経験からの募集をしている企業も多く、障害者採用が広く行われている職種の1つです。とはいっても、一般事務がカバーする業務内容は、書類作成、データ入力、電話対応、受付対応、サポート業務など、多岐に渡ります。具体的にどのような業務を任せられるかは企業の求人内容によって様々であるため、一般事務の経験があるからといって、すべての企業で事務作業ができるとは限りません。

たとえば、発達障害者や一部の精神障害者のなかには、コミュニケーションを苦手とする特性がある人もいるため、電話対応や受付対応が頻繁に行われるような環境の場合、働きづらさを感じることがあるかもしれません。企業側も「経験あり」と聞くとすぐ採用したくなってしまいますが、事務職の場合は、入社後特に業務内容について「こんなはずじゃなかった」となる事態が多いため、採用を決める前にしっかりと業務内容を確認したほうが安心でしょう。一方で、データ入力や発注業務など、業務内容がルーティン化しており、自分のペースでこなすことのできる業務を、得意とする障害者は少なくありません。企業側はこういった業務で広く障害者を募集すると、障害者雇用は成功しやすいかもしれません。

 

清掃

 

清掃業も事務職と同じく、「自分のペースでコツコツできる仕事」という特徴があるため、障害者採用がしやすい職種になります。基本的に作業内容が場所によって大きく変わることがないため、勤務地(作業する場所)が変わっても、比較的対応しやすい業種といえます。また、清掃業は短時間勤務が可能である場合も多く、「フルタイムの勤務には自信がないけれど、短時間なら働きたい」というニーズに応えることができるのも、やる気のある障害者を集められるポイントです。

 

工場内作業

 

工場内作業も、作業内容によっては障害者を採用しやすい業種のひとつです。食品製造や機械製造の工場で行われている「ライン作業」は、一つ一つの作業が単純で覚えやすく、周囲とのコミュニケーションも必要以上にとる必要がないため、柔軟かつ臨機応変な対応が苦手な障害者でも働きやすい現仕事といえます。また、多くの場合、ライン作業では場所を移動することはなく、1つの場所で業務ができるため、身体障害者にとっても働きやすい環境といえるのではないでしょうか。

 

エンジニア

 

エンジニアとは、SE(システムエンジニア)をはじめとして、プログラマー、Webエンジニア、機械エンジニアなど、様々な職種を総称しています。現状では、情報通信業が、障害者雇用率達成企業数ワースト1位になっていることから、障害者はエンジニアとして働くのが難しいと思われがちです。しかし、情報通信業で障害者雇用が進みにくいのは、客先常駐などの勤務形態が、日々の業務フォローが必要な障害者の方に馴染みにくいことが大きな原因であるといわれています。そのため、エンジニアの業務内容が、障害者雇用に向かないという訳では、けしてありません。

むしろ、正しいコードを書けばその通りに動くプログラミングは、ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)の人のように、一定の規則性を好む障害特性を持つ人に向いているといえます。日常では「障害」として扱われてしまう「こだわり」が、論理的かつ規則性に沿ったルールの中で物事を考える必要があるエンジニアの業務では、良い効果を発揮しやすくなるのです。

また、現在はIT人材の不足が業界の大きな問題となっていることから、エンジニアの障害者雇用枠は増加していくことが予想されます。

 

デザイナー

発達障害者は、日常生活の中で「健常者との考え方・感じ方の違い」に悩む人も少なくありません。しかし、この「違い」を活かせるのが、デザイナーの業務です。「斬新なアイディアが浮かぶ」「興味を持った分野にはいつまでも没頭することができる」「少しの変化でも敏感に感じ取る」といった特性は、デザイン制作などのクリエイティブな仕事に役立てることができます。事前に体系的な学習が必要になるため、ハードルは高いですが、能力を発揮できれば、天職といえる職業になるかもしれません。一方で、デザイン制作はチームで行う企業も多いため、コミュニケーションが苦手な人は、事前に業務の進め方などをよく確認することが大切です。

 

 

障害者を雇用するために利用できる支援機関

 

 

障害者を雇入れたいと考えている企業に対し、サポートを実施している支援機関があります。障害者雇用を検討している企業は、これらの支援機関を有効活用してみましょう。

 

ハローワーク

 

ハローワークでは、障害者雇用を促進するため、事業主に対する様々な支援を行っています。

障害者枠の求人も多く出していることから、登録障害者数も多く、良い人材に出会うきっかけが得やすいといえるでしょう。また、障害者雇用に関する制度、障害者雇用の進め方、雇用事例の紹介など、役立つセミナーを開催したり、特別支援学校や企業で実際に作業している様子を見学する機会を提供したりしています。雇用の仕方がわからない、適した仕事がないなどの企業側の悩みにも、アドバイスやサポートが得られるでしょう。

さらに、助成金の申請や支給を行うのもハローワークの役割のひとつです。トライアル雇用や特定求職者雇用開発助成金など、障害者雇用を行ううえで利用できる助成金は様々なので、障害者雇用を進める際にはハローワークとの連携は必要不可欠といえるでしょう。

 

地域障害者職業センター

 

地域障害者職業センターは、各都道府県に1箇所以上設置されている、障害者の就職や復職にあたって専門性の高い職業リハビリテーションを提供している施設です。障害者職業カウンセラーやジョブコーチを配置し、職業評価や就業準備に関する支援を行っています。企業に対しては、障害者雇用に関する雇用管理の相談や、研修会の講師派遣といった支援のほか、精神障害などで休職している従業員の復帰を手助けする「リワーク支援」や、ジョブコーチを事業所に派遣するサービスを行っています。

 

障害者就労支援センター・就労援助センター

 

地域障害者職業センターと同じく障害者や企業のサポートを行う機関ですが、前者は国の独立法人が運営しており、就業面のサポートに特化しています。一方、障害者就労支援センター・就労援助センターは、障害者の就労面と日常の生活面の一体的な支援が目的の支援機関です。就業や職場定着に向けたサポートのほか、健康管理や金銭管理など日常生活のにおけるドバイス、年金などの手続きといった生活設計の支援も行っています。企業の立場からすると、障害者に対して職業面でサポートすることはできても、プライベートまでは把握しにくいものです。そのような場合、障害者就労支援センター・就労援助センターは心強い味方になってくれるでしょう。

 

特別支援学校

 

特別支援学校には幼稚部・小学部・中学部・高等部があり、特別支援教育を受けながら自立を図るためのスキルを習得することを目的としています。近年では、高等部において、卒業後の就職を意識したカリキュラムが組まれることも多く、特別支援学校における学びを、社会に出て働く土台にしていく試みがされています。企業が、特別支援学校の卒業生を採用しようとする場合、実習や体験学習などを通じて採用の判断ができるため、面接や書類選考よりもミスマッチが少なくなるということが大きなメリットでしょう。

 

 

 

 

障害者雇用の成功事例

 

 

すでに積極的に障害者の雇い入れを行っている企業は、どのような工夫をしているのでしょうか。好事例をピックアップしましたので、見ていきましょう。

 

株式会社エフピコ

 

2021年3月時点で、障害者雇用率が12%を超えている株式会社エフピコは、食品トレーやお弁当の容器などを製造する企業です。1986年に知的障害者向けの特例子会社を設立したことから始まり、2007年には民間企業で初の就労支援A型事業所を開設するなど、早い段階から障害者雇用に取り組んできました。現在では北海道から九州まで、20箇所以上の事業所を展開しています。また、障害者雇用は非正規雇用での採用が多いというのが現状ですが、エフピコでは障害者であっても基幹業務で正社員採用をしていく方針を掲げるなど、雇用の安定も主軸に置いています。

 

株式会社ユニクロ

 

2001年に国内で障害者を本格的に雇用し始めたユニクロは、各店舗ごとに1人以上の障害者の採用を目標とするなど、積極的に障害者雇用を進めています。このような取り組みのなか、2020年度には障害者雇用率が法定雇用率を大きく上回る4%を超え、日本国内のみならず世界各国で1000名を超える障害者雇用を達成しました。また、従業員や店長に向けて障害者雇用に関する研修を行い、社内理解を深める取り組みも行っています。

 

第一生命チャレンジド株式会社

 

第一生命株式会社の特例子会社として2006年に設立され、精神障害・知的障害者を中心に清掃・事務・喫茶などの業務を行っています。多岐に渡る業務内容を強みに、障害の特性による得意・不得意を見極めながら一人一人に合わせた業務を割り当てています。また、短時間勤務を希望する従業員には、勤務時間の調整に対応するなど、無理なく働ける工夫も欠かしません。また、積極的に就労支援機関との連携をとり、情報共有を図ることで、障害者がしっかりと職場定着し、安定的に働き続けられる環境を構築しています。

 

化成フロンティアサービス株式会社

 

1993年に三菱化学会社の特例子会社として設立し、「すべての従業員が働きやすい環境づくり」を基本的な理念として障害者雇用に取り組んでいます。化成フロンティアサービス株式会社では、データ入力や文章作成などの各種データ処理、ホームページ作成、事務代行など、幅広い業務を提供しています。また、過去には無災害で表彰されたこともあるなど、障害者の安全と健康に配慮した企業経営は高く評価されています。

 

 

まとめ

 

 

長期的視点で見ると、わが国の障害者雇用は順調に進み、障害者の雇用機会も増加しています。障害者雇用の必要性を企業に意識付け、実行していくための段階はクリアしたといって良いでしょう。次の段階では、障害者の確実な職場定着や安定的な雇用を実現するための施策や工夫を考えていかなければなりません。また、事業形態によって障害者雇用がしにくい企業や実雇用率が伸び悩む企業へのフォローをしていくことも重要です。

すべての人が能力を発揮し、健康的に働いていける環境は、従業員だけでなく社会にとっても有益であり、事業経営にも大きなメリットがあります。障害者雇用にこれから取り組む企業や、今一つ障害者雇用が進まない企業では、障害者雇用のメリットにも目を向け、柔軟な考えを持つことが大切でしょう。

H&Gでは、障害者雇用に関するノウハウを蓄積しています。障害者雇用をご検討の方は、長期雇用実績のあるH&Gまでぜひお気軽にご相談ください。