障害者雇用率が引き上げられた影響で、障害者雇用に本腰を入れて取り組み始めた企業は少なくないしょう。しかし、社内に障害者を雇入れる環境が整備しにくい場合や、雇わなければならない障害者の数が多い企業の場合は、簡単に障害者雇用が進められないケースも少なくありません。このような課題を解決するため、特例子会社の設立を検討する企業が増えています。特例子会社とは、どのようなものなのでしょうか。この記事では、特例子会社の仕組みや設立のメリットについて解説するとともに、特例子会社活用の成功事例をご紹介します。
※目次
特例子会社とは
特例子会社とは、障害者の雇用促進と安定を目的とする、障害者雇用に特化・配慮した子会社のことをいいます。近年、多くの企業で設立が検討されている特例子会社ですが、どのような効果が見込まれているのでしょうか。
法定雇用率との関係
2021年11月現在、民間企業の事業主には、障害者雇用率2.3%の達成が義務付けられています。これは、43.5人以上の従業員を抱える企業においては、最低でも1人の障害者を雇用しなければならないことを意味します。
この障害者雇用率は、事業主ごとに義務付けられており、たとえ親会社や関係会社であったとしても、別個として考えなければなりません。そのため、親会社は親会社で、子会社は子会社で障害者雇用率を達成しなければならないのです。しかし、特例子会社は 一定の要件を満たしたうえで厚生労働大臣の認可を受けると、障害者雇用率の算定において親会社の一事業所とみなすことが可能です。つまり、特例子会社で雇入れた障害者の人数は、親会社の障害者の人数と合算して障害者雇用率を算定することが可能になるのです。
一般企業での障害者枠との違い
障害者が就労するとき、企業における障害者雇用枠という選択肢もあります。
障害者雇用枠での就労は、障害をオープンにしながら就労でき、企業からの合理的配慮の提供を受けることができます。しかし、障害者雇用枠で採用できる人数は限られているため、必然的に障害のない従業員のなかで働くことになります。そのため、法改正によって合理的配慮が受けやすくなったといっても、障害特性への理解や配慮が不足している可能性もあるでしょう。
一方、特例子会社では、最初から障害者雇用に特化した設備や仕組みが用意されており、共に働く従業員も障害者が多くなります。上司など指導する立場にいる人も、障害への理解や知識を備えているため、障害者は安心して働くことができるでしょう。
ただし、障害者雇用枠を用意している企業数は、特例子会社よりも断然多いため、障害者雇用枠も視野に入れた方が、通いやすさややりがいのある仕事に出会える機会は増えるかもしれません。
特例子会社による雇用状況
厚生労働省による「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」によると、2020年6月1日現在で特例子会社の認定を受けている企業の数は前年度より25社増の542社となっています。また、特例子会社で雇用されている障害者数も、前年度より2,144人多い3万8,918.5人と、特例子会社を障害者雇用実現のために活用する企業や、就職先として選択する障害者は増えていることがわかります。障害別の雇用者数では、身体障害者が11,573.0人(前年は11,939.5人)、知的障害者は20,552.5人(同18,885.5人)、精神障害者は6,793.0人(同5,949.5人)となっており、特例子会社によって、さまざまな障害者に雇用の道が開かれているといえるでしょう。
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特例子会社の業務内容
特例子会社における業務内容は企業にもよりますが、親会社やグループ企業の補助業務を行う場合が多いようです。例えば、郵便物やメールの仕分け、名刺発注やコピーなどバックオフィスのサポート業務や、福利厚生施設の運営、オフィスや工場などの清掃業務、簡単な部品組み立て作業や検品などです。
特例子会社が認定される条件の1つに、親会社との人的関係が緊密であることが挙げられているように、特例子会社は親会社の一事業所の1つという扱いです。そのため、基本的には親会社の業務を切り出し、委託されて行うという形式になります。
特例子会社で障害者雇用をするメリット
特例子会社は、ある程度の人数の障害者を採用できるため、グループ全体の障害者雇用率を引き上げる効果があります。しかし、特例子会社のメリットはこれだけではありません。ここでは、特例子会社だからこそ実現できる障害者の働きやすさについて詳しく解説していきます。
働くための制度を柔軟に構築できる
親会社とは別の組織である特例子会社では、障害者が働くために適した制度や環境を柔軟に構築できます。例えば、通院や療養が必要な障害者のために休暇を取りやすい仕組みを整えたり、体調や障害特性に合わせた緩やかな勤務スケジュールを組んだりといった配慮をしやすくなるでしょう。このような配慮には、一般企業においてはなかなか実現が難しい内容もあるため、特例子会社ならではのメリットといえるでしょう。障害者に寄り添うことを第一に考えた制度設計は、働きやすさだけでなく、定着率や生産性の向上にも大きく寄与します。
効率的な設備投資を行える
障害者が問題なく働ける環境を構築するためには、ある程度の設備投資が必要不可欠です。例えば、身体障害者を採用すれば、手すりやすべり止め、車椅子用のスロープなどを設置しなければなりません。複数の障害者を違う時期に雇入れる場合には、それぞれの障害特性を考慮した設備が必要になるため、採用の都度工事や備品購入の手間とコストがかかってしまいます。特例子会社であれば1箇所に集中して障害者が働きやすい環境を作れば良いため、効率的な設備投資が行えるでしょう。
定着率や生産性が向上する
「定着率の低さ」は障害者雇用における大きな課題です。「障害者の就業状況等に関する調査研究」によれば、入社後1年の定着率は身体障害60.8%、知的障害68.0%、精神障害49.3%、発達障害 71.5%とされています。
障害者の離職理由は、障害の種類や労働条件によりさまざまですが、特例子会社では、障害者一人ひとりの悩みに寄り添える体制を整えているため、早期の離職を防ぐことが可能です。
また、障害を抱える人同士が一緒に働くことで、孤独感や迷惑をかけているのではないかといったネガティブな感情が起きにくくなるのも、働きやすさのポイントでしょう。最近では、障害者のキャリアアップにも積極的に向き合うが特例子会社が増えているため、やりがいや仕事への意欲を高められることも、定着率や生産性の向上につながっています。
特例子会社でメリットを得やすい企業
特例子会社の設立によってメリットを得やすいのはどのような企業でしょうか。ここでは、特例子会社による障害者雇用が向いている企業とその理由を解説します。
雇用人数が多い
従業員数が多い企業の場合、特例子会社を設置するメリットは大きくなります。企業が雇用すべき障害者数は、雇用労働者に対する割合で決まるため、雇用人数が多い企業ほど雇うべき障害者も多くなります。数名程度であれば現在の職場で対応できても、グループ全体で数十名・数百名規模にもなると、設備投資や管理体制の構築にはかなりのコストがかかります。そのため、特例子会社を設けて一括雇用・管理した方が効率的です。また、障害者にとって働きやすい環境が構築できる点でもメリットは大きいです。
一方、規模が大きくない企業の場合、別組織の設置や運営にかかるコストが逆に負担となってしまうかもしれません。今後の組織規模の拡大を見越して特例子会社を設置する場合以外では、慎重な検討が必要でしょう。
障害者雇用に積極的
近年、多くの企業でCSR(企業の社会的責任)のための活動が盛んに行われています。CSRとは社会の構成員の1つとして、企業が責任ある行動をしていこうとする考え方です。また、SDGs(持続可能な開発目標)への取組みを、企業活動の根幹に据える企業も増えています。このようななか、社会的に意義のある取組みの1つとして障害者雇用に力を入れる企業は増加傾向にあるといえるでしょう。
これらの企業においては、障害者雇用率を達成するために障害者を雇入れるのではなく、企業活動の担い手として能力を発揮し、いきいきと働ける環境づくりが目指されています。企業のこのような想いを実現しやすいのが特例子会社といえるでしょう。
一般部署への配属が難しい
会社経営においては、利益の追求が第一です。そのため、忙しい職場で障害者を雇入れても、必要な配慮が思うようにできない場合もあります。また、休みが多かったり、作業スピードが遅い障害者に対しては、与える業務の切り出しが難しい業種・職種もあるでしょう。このような企業では、業務の一部をまとめて特例子会社に委託できるようにすると、管理がしやすくなります。特例子会社では、個々の障害者にとって適切なペース配分や能力に応じた仕事内容を与えることが可能です。そのため、一般部署の業務が難しい障害者も、特例子会社では能力を発揮し活躍できるケースは多々あるのです。
特例子会社の成功事例
特例子会社を活用し、障害者雇用に積極的に取り組んできた企業の中には、すでに大きな成果を上げている事例がいくつもあります。ここでは、4つの企業の事例をご紹介していきます。
NTTクラルティ
NTTクラルティは、2004年にNTTの特例子会社として設立されました。当初は3名しかいなかった障害のある従業員は、2019年には300名を超えました。従業員が抱える障害の種類も、肢体不自由から精神・知的障害まで多岐にわたるものの、多様な業務の中からその人に最適な業務をマッチングしています。
業務のなかには、障害者や高齢者にとって見にくいとされるサイト上の「バリア」を発見し、改善策を提案する「アクセシビリティ診断」サービスや、障害者・バリアフリー化支援に向けた情報発信ポータルサイト「ゆうゆうゆう」の運営といった、障害者の視点を活かしたものも多く、障害者雇用が事業活動に活かされています。
博報堂DYアイ・オー
博報堂DYアイ・オーは、1989年に博報堂の特例子会社として設立され、2006年10月1日からは株式会社博報堂DYホールディングスの特例子会社となりました。博報堂DYアイ・オーでは、グループ各社の間接部門やスタッフ部門の業務を中心に、経理・証憑書類のファイリング管理・IT運用サポートなどバックオフィス業務サポートを行っています。
全従業員の半数以上に障害者を採用しており、従業員が抱える障害の種類も多岐にわたります。聴覚障害者が多く、社内では手話を使ったコミュニケーションが当たり前に実践されているのも大きな特徴です。健常者・障害者の別なく責任ある仕事を任せられ結果が求められる一方で、会議での率直な発言やアイディアの提案が歓迎される社風が根付いており、多くの障害者がモチベーション高く働いています。
パーソルチャレンジ
2008年にパーソルグループの特例子会社として認定を受けたパーソルチャレンジでは、「障害者雇用を成功させる」というミッションを掲げています。2019年4月時点で330名を超える障害者が所属しており、そのうちの6割超を精神障害のある従業員が占めています。
主な業務内容は、PCデータ入力や求人原稿制作、資料の封入・印刷代行などのバックオフィス業務です。製造業における生産管理・品質管理の仕組みを取り入れることで、徹底した業務マネジメントに成功しています。また、コミュニケーションの「見える化」をすることで、働きやすい職場環境を構築しています。
パーソルチャレンジにおける障害者雇用で培った知見は、パーソルグループ本体の採用活動や労働者派遣サービスにも活用されており、グループ全体のサービス向上にもつながっているといえるでしょう。
リクルートオフィスサポート
1990年にリクルートの特例子会社として設立されました。リクルートグループには特例子会社が3社設置されていますが、リクルートオフィスサポートは創業3年時に設立されて以来、グループの障害者雇用の中核としての役割を担っています。
主な業務は、リクルートグループの総務、個人情報や契約書の管理、経理業務などバックオフィス分野のサポートです。リクルートオフィスサポートでは、「価値の源泉は人」がモットーです。従業員それぞれが自由に意見を交わすことができる風土が根付いており、障害の有無や障害の種類に関係なく、一人ひとりが持つ能力を最大限発揮できる「成長の場」が用意されています。創業当初はわずか6名による印刷・データ入力業務からのスタートでしたが、現在では、300名を超える従業員が多彩な業務で活躍するまでになっています。
まとめ
障害者雇用を推進する企業が増えるなか、障害者がいきいきとやりがいを持って働く環境を構築するためには、さまざまなハードルをクリアしなければなりません。しかし、職場や業務内容によっては実現が難しい場合も少なくないでしょう。このようなとき、特例子会社の設立は多くの問題を解決してくれるかもしれません。
もちろん、特例子会社の設立にあたっては一定以上のコストがかかるため、簡単に実現できるものではありません。しかし、取組みによっては、「障害者がいきいきと働ける環境」と、「障害者雇用率の達成」の双方が実現する可能性があるでしょう。
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