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【コラム#36】障害者雇用の解雇の現状とは?障害者に対する解雇の注意点も解説

2020年初頭より猛威を奮っている新型コロナウイルス感染症の拡大は、1年半以上経った現在も、完全に収束していません。複数回の緊急事態宣言の発令や、外出自粛によって消費者心理は冷え込み、そこに飲食業・サービス業などへの営業制限も加わり、国内の経済社会は苦境の只中にあります。このようななか、経営状況が悪化する企業も多く、すでに、解雇や雇い止めに遭う労働者が増加傾向にあります。このような労働者の問題は、看過できない問題となりつつあるでしょう。では、このような未曽有の危機的状況は、障害者雇用に対してはどのような影響を及ぼしたのでしょうか。この記事では、障害者雇用の現状と解雇についての注意点や手続きの流れなどを紹介します。

 

※目次※

1.障害者雇用の現状

2.解雇の種類

3.障害者を解雇する際の注意点

4.障害者を解雇する場合の流れ

5.まとめ

 

 
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障害者雇用の現状

 

 

障害者雇用促進法や、障害者差別解消法の浸透によって、近年、我が国の障害者雇用の状況は大きな躍進を遂げていました。2020年6月1日現在、雇用障害者数は57.8万人となり、17年連続で過去最高を更新しました。実雇用率も2.15%となり、企業規模によって均等とはいえないものの、企業等の積極的な取り組みによって障害者雇用は着実に進展しているといえるでしょう。しかし、2021年以降は、障害者雇用の現場においても、コロナ禍の影響が浮彫りになりつつあります。多くの業界が不況に喘いでいる現在、障害者雇用はどうなっているのでしょうか。

 

コロナ禍で障害者の就職は難航している

 

厚生労働省による調査では、2019年度における、ハローワークを通じた障害者の就職件数は、対前年度比0.8%増の10万3163件でした。この件数は、11年連続の増加であり、過去最高の数字です。しかし、翌年の2020年度(2020年4月~2021年3月)の就職件数は 89,840 件で、対前年度比12.9%減となっています。2020年度における減少幅は、リーマンショックの影響によって雇用が減少した2010年の3.9ポイント以来、最も大きくなっていました。

また、就職件数の減少だけでなく、新規求職申込件数も減少に転じていることから、コロナ禍によって、就職活動にも大きな制限がかけられていることが伺い知れます。

就職だけでなく、解雇についても、明らかな増加傾向を示しています。厚生労働省の資料によれば、2020年4月~2021年3月の障害者の解雇は2,191名となっており、前年の2,074名を117名上回っていました。特に、新規感染者数が大幅に増加した、「第2波」が到来した2020年7月には266名が解雇され、前年同月の98名と比べ、約63%も増加しています。コロナ禍は、障害者の就業に大きな壁となって立ちはだかっているといえるでしょう。

引用元:令和2年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などの取りまとめ

 

解雇の主な理由

 

障害者雇用促進法では、企業に対し、障害者を解雇する際の、ハローワークへの届出を義務付けています。また、企業が法定雇用率を満たす障害者雇用数を保つことは、メリットも大きい取り組みです。そのため、一般労働者に比べ、障害を持った労働者は解雇されにくいようにみえます。それにもかかわらず、なぜ、コロナ禍によって障害者の解雇が増加しているのでしょうか。

理由の1つに、障害を持った労働者がリモートワークに向かないケースが多いことが挙げられます。障害者雇用が比較的多い、事務サポートや印刷関連、清掃、軽作業などの業務は、リモートワークで行うことが困難です。また、リモートワークが導入できる業務であっても、障害者への日常的なサポートが行えない場合もあります。例えば、健常者であれば、リモートワークであってもWeb会議ツールなどを使えば、日々のコミュニケーションは事足りるでしょう。しかし、障害者の場合、細かな体調変化や心身の状況が画面越しでは把握しにくく、困っていることをうまく伝えられない人も少なくありません。また、障害者のなかには、職場へ出勤することが日々のルーチンワークとして身に付いている人も多いため、急な在宅勤務やいつもと違う環境下での業務は、大きなストレスになる場合もあります。

もちろん、コロナ禍における労働者の解雇は、休業や廃業などにより生じているため、障害者に限ったことではありません。しかし、障害者の解雇が増えている理由は、企業による緊急時のサポート体制が追い付いていない状況もあるでしょう。

 

 

 

解雇の種類

 

 

「解雇」とは、企業側からの一方的な労働契約解除のことをいいます。しかし、企業はいつでも自由に労働者を解雇できる訳ではありません。労働契約法第16条には、「解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者を解雇することはできない」と定められています。労働者を解雇するには、社会の常識に照らして納得できる理由が必要であり、障害者雇用においても同様です。企業は、就業規則や労働条件通知書に解雇となり得る事由を明記しておかなければならず、各法律に定められた解雇制限期間や解雇制限事由を遵守しなければなりません。企業が労働者を解雇するまでは、大きなハードルがあるといって良いでしょう。解雇には、普通解雇、整理解雇、諭旨解雇、懲戒解雇があります。ここでは、解雇の種類について説明していきます。

 

普通解雇

 

普通解雇とは、労働者側の責任によって、労働契約を継続するのが困難な場合に成立します。例えば、下記のような理由が考えられます。

  • 勤務態度や勤務成績が著しく悪く、指導を行っても改善の見込みがない場合
  • 病気やけがにより長期間就労不能となり、復職の見込みがない場合
  • 協調性に欠けるなど、日常業務に著しく支障をきたし、改善の見込みがない場合

普通解雇の決定に至るまでは、労働者の問題行動に、「改善の見込み」があるかどうかを判断しなければなりません。1度だけの失敗や、やむを得ない無断欠勤の場合は、改善の見込みがないとまではいえないため、すぐに解雇はできません。

 

整理解雇

 

整理解雇とは、経営悪化により人員整理を行わなければ企業の事業存続ができない場合の解雇をいいます。整理解雇の場合は、複数人数を同時に解雇するケースが多いでしょう。

もちろん、この場合も労働契約法第16条に挙げられた条件である、「客観的にみて合理的な理由と社会通念上の常識」が認められなければ解雇することはできません。そのため、整理解雇では以下の4つの条件を満たす必要があります。

  • 整理解雇することに客観的な必要性があること
  • 整理解雇を回避するために、最大限の努力を行ったこと
  • 整理解雇する労働者の人選について、基準が明確で妥当であること
  • 労使間で十分な協議が行われたこと

このように、整理解雇の実施は、企業存続のために必要な場合にのみ、認められます。ただし、解雇は労働者に一方的な不利益を与える行為であり、大きなダメージを与えます。整理解雇を実施する前に、早期希望退職者の募集や退職勧奨を行うなど、段階を踏むことが大切です。

 

諭旨解雇

 

諭旨解雇とは、後述する懲戒解雇よりも少し軽い処分、という位置付けにある解雇をいいます。実際に法律で定められた解雇の方式ではありませんが、就業規則などに定められていれば有効です。

諭旨解雇は、労働者が懲戒解雇処分に相当する不祥事を起こしたものの、その労働者のこれまでの功績や不祥事の背景などを考慮して、懲戒解雇を適用しない場合に行われます。企業が当該労働者に対し、退職届や辞表を出すように諭すことから、諭旨解雇と呼ばれています。一方的に解雇を言い渡すのではなく、労働者の意志で退職する形式を取ることから、懲戒解雇よりは多少緩やかな処分といえるでしょう。就業規則の定めにより異なりますが、企業によっては退職金の一部や全部が支払われる場合もあります。

諭旨解雇は、企業の温情によって、本来ならば懲戒解雇とする処分を軽減するものです。逆にいえば、懲戒処分に相当する不祥事でなければ諭旨解雇を行うことはできません。採用時の就業規則や労働条件通知書などに諭旨解雇の事由がしっかり書かれていることと、労働者に弁明の機会を与えることが必要とされています。

 

懲戒解雇

 

懲戒解雇とは、解雇のなかで最も厳しい処分です。犯罪行為や違法行為などにより企業イメージを損ねたり、大きな損害を与えたりした際に行われます。

懲戒解雇処分を受けると、労働者は再就職の際に、懲戒処分で前職を退職したことを申告しなければなりません。そのため、懲戒解雇は、労働者の将来や人生にまで影響を与える重い処分であるといえるでしょう。事実に反する内容や、審理が不十分な内容が含まれた処分を行うことがないように、企業は十分に気を付ける必要があります。また、企業は、採用時の就業規則や労働条件通知書に懲戒解雇の要件を具体的に明示し、懲戒解雇処分時のトラブル発生を防ぐことが大切です。

 

 

 

障害者を解雇する際の注意点

 

 

障害者の解雇においても、上述の労働契約法第16条で定められた、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合」という条件を満たさなくてはなりません。解雇の条件は、障害者も健常者も変わらないといえます。それでは、障害者を解雇する際にはどのような点に注意すべきなのでしょうか?

 

要件を満たす必要がある

 

障害のある労働者が、健常者と同じように働くために必要とされるのが、「合理的配慮」です。合理的配慮は、企業に対して「過重な負担」となる場合には免除されますが、基本的には、障害者を雇入れる以上は、義務付けられます。そのため、障害を持つ労働者が一般従業員と比べ業務遂行能力が低かったり、休みや遅刻が多かったりしても、それが障害の特性である限りは、合理的配慮を根拠とする十分なサポートを行わない限り、障害者を解雇することはできないとされています。この点からみると、障害者は健常者よりも解雇されにくいといえるでしょう。

逆にいえば、企業側が十分なサポートを行ったにもかかわらず、「勤務態度の改善が見られない」あるいは、「就労不能の状態が改善しない」ような場合などは、解雇されるにあたって合理的な理由があると判断されます。

 

不当に解雇してはならない

 

厚生労働省では、「障害者差別禁止指針」のなかで、採用から賃金、配置、昇格、降格、教育訓練、福利厚生、定年などについて、障害を理由とした差別の禁止を定めています。そのなかで、解雇については、次のような事項が差別にあたるとして禁じています。

  • 障害者を理由とする解雇
  • 解雇事由を定める際に、障害者のみが対象となるような条件を設けること
  • 解雇基準を満たす労働者が複数いる場合に、障害者を優先して解雇すること

このように、障害者の不当な解雇は禁じられており、障害を理由とする解雇はできません。しかし、コロナ禍においては、やむを得ず事業を縮小しなければならない企業は多く、手を尽くした結果、障害者を人員整理の対象とすることまでは禁じられていません。

 

 

 

 

 

障害者を解雇する場合の流れ

 

 

実際に障害者の解雇を行う場合には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。

ここでは、一般的な流れをご説明します。

 

解雇理由の整理

 

解雇は、労働者の意思に関係なく企業側から一方的に行うものです。そのため、その解雇が不当解雇にあたらないかどうか、十分に検証する必要があります。特に障害者を解雇する場合は、不当な差別にあたることがあってはいけません。解雇される労働者が納得しない場合、訴訟やトラブルなどにも発展しかねないため、慎重に行いましょう。

また、勤務態度や協調性の不良といった理由だけでは具体性に欠け、解雇理由としては不十分と認識される可能性があります。欠勤日数や社内でのトラブルの経緯など、できる限り具体的な記録を用意し、対象労働者が納得できる説明をすることが大切です。また、解雇通告の前段階として、障害者の家族や公的なサポート機関にも、解雇理由や経緯などを伝えておきましょう。解雇された労働者の心理的ダメージは大きく、障害者の場合は体調にも影響を及ぼす可能性があります。解雇したら終わり、ではなく、解雇後も障害者が周囲からのサポートが受けられるように配慮することが、企業にとっての最後の責任といえるでしょう。

 

解雇通知書の作成

 

企業が労働者を解雇する場合、一般の労働者の解雇時と同様に、解雇通知書を作成します。解雇の通知は口頭で行っても良いこととされていますが、後々「言った、言わない」のトラブルに発展しかねません。そのため、解雇通知書は作成したほうが無難でしょう。内容は、対象労働者の氏名や解雇日、解雇理由、解雇予告通知日などを記載します。

なお、労働基準法第22条により、「労働者から解雇理由の証明書を求められた場合、企業は速やかに作成しなければならない」と定められています。その際、労働者が記載を希望しない事項については記載することはできません。

 

解雇の通知

 

解雇通知書を作成したら、対象の労働者に手渡します。この「解雇の通知(予告)」は、解雇日の30日以上前でなければなりません。解雇の通知から解雇日までが30日に満たない場合には、「解雇予告手当」として、30日に足りない日数分の平均賃金を支払うことが義務付けられています。例えば、解雇日の10日前に解雇の通知を行った場合には、30日-10日=20日分の平均賃金を支払わなければなりません。

なお、労働基準法第20条には、「解雇予告除外認定」について定められています。これは、解雇を行う前に労働基準監督署長の認定を受ければ、解雇予告や解雇予告手当の支払いをせずに即時に解雇が行える規程です。解雇予告除外認定の条件は「従業員の責に帰すべき理由(窃盗や横領などの犯罪行為、正当な理由のない長期間の無断欠勤など)による解雇の場合」や「天災地変等により事業の継続が不可能となった場合」です。

また、障害者の解雇を行う場合には、企業側は速やかにハローワークに「障害者解雇届」を提出する必要があります。障害者の再就職は一般よりも困難であるため、再就職に向けて早期の支援が必要となるためです。ただし、解雇予告除外認定の条件に当てはまる場合はこの限りではありません。

 

荷物の整理

 

労働者が解雇に同意したら、仕事で使用していたパソコン内の整理や、私物を整理してもらいます。

仕事の引き継ぎなどで本人が忙しくなる場合もあるので、早めに行うように促します。

その際、データの持ち出しなどが起こらないよう、仕事関係の資料や、USBや社用の携帯電話などのデジタル機器の扱いには注意が必要です。最後の出勤日には社員証、IDカード、鍵なども忘れずに返却してもらいましょう。

 

解雇の発表はどうする?

 

普通解雇や整理解雇の場合、社内掲示板などでその旨を発表する会社は少なくありません。ただし、解雇はセンシティブな内容を含むため、社内に公表する内容は事実のみにとどめ、詳細な発表は控えるべきでしょう。

また、懲戒解雇の事実の公表は基本的に差し控えるべきです。懲戒解雇は、当該労働者のプライバシーや名誉にかかわる情報を含むため、労働者名はもちろん、所属部署名など、本人が類推される恐れのある情報も公表してはいけません。

 

各種手続き

 

解雇後には、社会保険の資格喪失手続きや、住民税を特別徴収している場合の変更手続きなどが必要です。社会保険の手続きは、労働者の今後の生活にかかわるため、速やかに行いましょう。

会社都合での退職(解雇を含む)である場合、失業手当の申請手続きから1週間の待機期間後に失業状態と認定され、雇用保険に加入していた期間に応じて失業手当を受給できます。

 

 

 

まとめ

 

 

一般に、企業は正当な理由なく労働者を解雇することはできません。これは障害を持った労働者でも同様です。障害者の解雇を検討する場合は、合理的配慮の考え方に気を付けましょう。「成果があげられない」「組織に馴染めない」「遅刻欠勤が多い」など、一般的な労働者の解雇事由に相当しても、すぐには解雇にできない可能性があります。企業側が十分なサポートを行った結果、改善の見込みがない場合に、初めて解雇することが可能になります。ただし、解雇を通告された労働者の心理的ダメージは大きく、障害者の場合は体調にも影響を及ぼしかねません。突然の解雇ではなく、できる限りの猶予を与え、サポートする姿勢を忘れないようにしましょう。

障害者雇用についてお悩みの際には、ぜひ1度H&Gにご相談ください。障害者雇用の経験と専門性を持ったスタッフが障害者マネジメントを手厚くサポートいたします。