近年、日本においても「ダイバーシティ」の理念が浸透し、多様な人材を活用していく動きが高まりつつあります。
本来ダイバーシティとは、マイノリティの人権問題に端を発して生まれた考え方ですが、最近では労働力不足を解消するために、これまで労働力としてみなされてこなかった層の活躍を推進するためにも提唱されるようになりました。そのような背景のもと、近年日本では、障害者雇用のための政策が盛んに打ち出されており、障害者の方にも職業人としての活躍が期待されています。
2020年時点で、障害者の雇用数は増加の一途をたどっており、多様な業種のなかで障害者が活躍の幅を広げていることがわかります。その一方で、業種によっては障害者雇用が進まず、課題を抱えている企業も少なくありません。
この記事では、日本の障害者雇用の現状と、障害者雇用を推進するうえでの課題を確認するとともに、障害者が働きやすい環境を整備するためにはどのような工夫が必要であるかなど、課題の解決方法まで解説していきます。
※目次
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障害者雇用の現状
はじめに、日本の障害者雇用の現状について、おさらいしましょう。
障害の種類と雇用の傾向
障害者は、大別すると身体障害者・知的障害者・精神障害者の3種類に分けられます。
日本の障害者雇用推進の歴史は、1960年の「身体障害者雇用促進法」制定から大きく動き出します。名称の通り、法律の制定当時は身体障害者のみが対象でした。しかし、その後改正が繰り返され、1998年には知的障害者が、そして2018年には精神障害者が対象に加わり、さまざまな障害を抱えた人々が、障害者雇用に関連する政策によって支援を受けられるようになりました。
厚生労働省が発表したデータによると、民間企業に雇用されている障害者数は、2020年時点で57.8万人にのぼり、
17年連続で過去最高を更新しました。
上述の通り、身体障害者の雇用政策が最も早く行われていたことから、現在でも雇用者数の内訳は、身体障害者が全体の半数以上を占めています。
しかし、前年からの伸び率は身体障害者が0.6%であったのに対し、
精神障害者は12.7%と大幅に上昇しており、精神障害者の雇用機会が急速に拡大していることがわかります。
その一方で、精神障害者の雇用定着には課題が指摘されています。職場定着率のグラフを見ると、
1年を経過しても離職しなかった知的障害者は68.0%であったのに対し、精神障害者は49.3%と半数を下回っていることがわかります。
このことから、障害者を雇入れるだけではなく、しっかりと職場に定着できるように、入社後も継続的にサポートを行う体制が重要といえるでしょう。
民間企業における障害者雇用の現状
続いて、障害者雇用状況を規模別に見てみましょう。民間企業全体の実雇用率平均は2.15%となっていますが、従業員数が500人~100人未満の企業と、1000人以上の企業は、平均を上回る割合となっていることがわかります。
その一方で、中小企業をはじめとする従業員数45.5人~100人未満および100人~300人未満の企業は、2%を下回っている状況です。
また、日本では「法定雇用率」と呼ばれる、企業規模に応じて一定数の割合以上の障害者を雇用しなければならないというパーセンテージが法令によって定められています。2020年時点での民間企業の法定雇用率は2.2%で、この割合を達成した企業は、従業員数1000人以上の大企業が一番多く、60%に達しています。
しかし、それ以下の企業規模では4割~5割程度の達成率に留まっており、特に中小企業における障害者雇用の推進は大きな課題です。
国・地方公共団体における障害者雇用の現状
障害者雇用における法定雇用率は、民間企業だけでなく、国や地方公共団体にも定められています。
2021年3月の改正によって、民間企業の法定雇用率は2.3%になりましたが、国・地方公共団体などは2.6%と更に高い割合が設定されています。
これらの公的機関における障害者雇用は、どのような状況なのでしょうか。まず、2020年時点における国の機関による法定雇用率達成状況をみると、45機関中44機関で達成することができました。また、在籍している障害者の数は、9,336人にのぼり、前年よりも23.2%増加しています。
実雇用率も2.83%と、法定雇用率を上回っています。
地方公共団体においても、都道府県の機関は159機関のうち142の機関で、市町村では2,465機関中1,741の機関において、法定雇用率を達成しています。障害者数においても、前年比でどちらも7~8%程度増加しており、実雇用率は都道府県が2.73%、市町村が2.41%となっています。このうち、市町村機関の実雇用率は前年と変わりなく、他の公的機関と比較すると、やや伸び悩んでいるようです。
障害者雇用促進法とは
では、「法定雇用率」とは、どのように定められているのでしょうか。
法定雇用率を定めているのは「障害者雇用促進法」という法律です。障害者雇用促進法は、これまで幾度にわたって改正されてきており、法定雇用率の引き上げにも関わってきました。障害者雇用促進法では、具体的にどのような内容が定められているのでしょうか。
障害者雇用促進法の概要
障害者雇用促進法は、障害者の雇用機会と、その安定を実現するため、障害者雇用に取り組む意義と雇用主が守るべき義務を定めた法律です。
障害者雇用推進の根底には、障害の有無に関わらず、すべての国民が互いを尊重し合う社会を意味する、「ノーマライゼーション」という考え方があります。すべての人間は、等しく社会に参画する権利があります。しかし、障害を抱える人にとっては、健常者と同様の条件で働き、同様の成果をあげるのは、簡単なことではありません。この法律は、障害者をただ雇用するだけでなく、障害者が働くうえで発生する不平等や不便をできる限り解消し、障害者が本当の意味で充実した職業人生が送れるように、支援していくことが目的です。
障害者雇用促進法では、障害者を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」と定義しています。
このように定義される障害者のうち、法定雇用率に算定されるのは、障害者手帳を保有している人に限られています。
障害者雇用促進法が定めている措置は、大別すると以下の5つです。
-
- ・雇用義務制度
- ・差別禁止と合理的配慮の提供義務
- ・障害者職業生活相談員の選任
- ・障害者雇用状況の報告
- ・職業リハビリテーションの実施
障害者雇用率とは
法定雇用率は、障害者雇用率とも呼ばれます。障害者雇用促進法における、企業の雇用義務を推進するための指標として設定されました。
企業は、全体の常用労働者数のうち、法定雇用率で定められた割合以上の障害者を雇用するように義務付けられています。
常用労働者とは、無期雇用もしくは1年以上雇用されている者、または見込まれる者であり、1年以上雇用されている週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者を含めます。
未達成の場合納付金の納付が必要
法定雇用率の達成は企業に課せられた義務ですが、さまざまな事情により達成できない場合も少なくないでしょう。
障害者雇用促進法においては、このような法定雇用率の未達成企業に対して、罰則が定められている訳ではありません。
しかし、「障害者雇用納付金制度」という制度のもと、納付金を支払う義務が発生します。
徴収された納付金は、障害者雇用を積極的に行っている企業が、障害者を受け入れるにあたって負担した費用を支援するための調整金・報奨金の原資として使われます。障害者雇用納付金制度とは、障害者雇用にしっかりと取り組んでいる、法定雇用率を達成した企業と、未達成企業の間における、費用負担の格差を埋めようとする仕組みなのです。
達成すると調整金と助成金の支給がされる
法定雇用率を達成している企業には、前述の納付金を原資として、対象となる障害者1人につき月額で固定の金額が支給されます。
人数のカウント方法は勤務時間や障害の程度によって例外もありますが、基本的に調整金の額は超過している人数1人につき2万7千円です。
また、企業に対する一時的な経済的負担の軽減や、さらなる障害者雇用促進を目的として、一定の条件によって助成金が支給される制度もあります。
助成金を支給される条件はさまざまで、
「障害者を雇用した場合」
「施設や設備の設置・メンテナンスを行った場合」
「職場定着の措置を実行した場合」
「職業能力訓練を行った場合」など、
さまざまな障害者雇用を推進する施策に応じて受けられるようになっています。
障害者雇用促進法改正のポイント
2020年に障害者雇用促進法が改正され、民間企業に対して「事業主に対する給付制度」「優良事業主の認定」という2つの措置が新たに盛り込まれました。このような施策は、2018年に発生した、対象障害者の不正計上問題への反省と、いまだ大きな課題がある中小企業における障害者雇用対策などを背景に、さらなる雇用の促進を目的として導入されたものです。
まず、給付制度とは、週10~20時間未満の障害者を雇用する事業主に対して、給付金を支払うというものです。
これまでは週20時間以上30時間未満の労働者を「短時間労働者」と定義しており、短時間労働者を下回る労働時間の障害者については、法定雇用率の算定に含まれず、企業への助成金も支給対象外となっていました。一方で、短時間の就労を望む障害者も一定数存在することから、より幅広い就労形態での雇用を促進することを目的に、このような制度が生まれました。
優良事業主の認定は、常用労働者数が300人未満の中小企業を対象に、障害者雇用に関する姿勢を積極的に評価していく制度です。
評価方法は、
「取組(アウトプット)」
「成果(アウトカム)」
「情報開示(ディスクロージャー)」という3つの評価基準のなかで、企業の姿勢を加点方式で採点します。
一定の点数以上の評価を得られた場合に、優良事業主として認定されます。
優良事業主として認定されると、自社商品や広告などに「認定マーク」を掲載できるようになり、広告効果や企業のイメージアップが期待できるでしょう。
障害者雇用の課題
障害者雇用の促進といっても、ただ法定雇用率を達成すれば良い訳ではありません。企業がしっかりと考えていかなければならないのは、いかに障害者にとって働きやすい環境を構築し、安定して働き続けてもらえるか、ということです。現在の日本において、障害者雇用にはどのような課題があるのでしょうか。
障害の特性に合った配慮を行えているか
障害者を雇入れるにあたって、企業には「合理的配慮の提供」義務が課せられています。
合理的配慮とは、障害者が職場環境のなかで感じるさまざまな困難を取り除き、能力を発揮しやすい環境を整えることをいいます。具体的には、自力での移動が困難な障害者のためにスロープやエレベーターを設置したり、疲労や緊張を感じやすい障害者のために、こまめな休憩が取れるようにルール作りをしたりすることです。
合理的配慮の提供を行ううえで重要なことは、障害者それぞれが抱える障害特性に合わせた配慮を行うことです。前述の例でいえば、障害者だからといって誰しもがエレベーターを必要とはしませんし、頻繁に休憩を取らなくても構わないという障害者もいるでしょう。
合理的配慮は、障害者個人が必要とするものを提供することが大切です。
そのため、配慮する事項については、採用面接などで本人の話をよく聞き、実現可能かどうかをよく話し合うことが大切です。
また、採用面接時には特別な申し出が無かったとしても、実際に働いてみて初めて配慮の必要性に気付くことも少なくありません。そのため、定期的に面談などの時間を設けて、現在の就労環境で問題はないか、なにか必要な支援はあるか、ヒアリングを行うことが重要です。
障害者が定着しやすい環境を構築できているか
前述の通り、障害者雇用においては早期離職が起きやすく、職場定着は大きな課題になっています。障害者を雇入れることがゴールではなく、障害者が長期間安定して働けるように支援していくことが大切です。
厚生労働省職業安定局が行った、平成25年度障害者雇用実態調査結果では、「職場における改善等が必要な事項はなにか」という設問において、次のような回答がなされています。
-
- ・能力に応じた評価・昇進・昇格(28%)
- ・調子の悪い時に休みを取りやすくする(19.6%)
- ・コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置(18%)
- ・能力が発揮できる仕事への配置(17.5%)
この結果をみると、障害によって発生する困難を解消するだけでなく、雇用条件や評価基準を整えてほしいという声が大きいことがわかります。
障害者雇用においては、非正規雇用での契約が少なくないうえに、仕事内容が軽微なものであることも多いため、そもそも昇進や昇給といったシステムが存在しないというケースもあります。
もちろん、簡単な仕事から少しずつ慣れていきたい障害者の方を丁寧にサポートすることも大切ですが、能力を発揮したいと考えている障害者の場合は、同じような仕事内容ではもの足りないこともあるでしょう。
このように、「障害者の仕事」として十把一絡げの扱いにするのではなく、障害の程度や本人の希望、能力に応じた柔軟性のある雇用環境を作り上げる必要があります。
引用元:平成25年度障害者雇用実態調査
職場全体が障害に理解を深めているか
また、職場全体における障害者雇用についての理解を深めることも重要です。
障害者の採用活動や、配属の決定などは、おもに経営層や管理職の主導のもと行いますが、実際に障害者本人と一緒に働くのは現場の従業員です。
現場の理解無くしては、障害者が安心して働くことはできないでしょう。
障害者雇用に関する施策は、多くの経営層にとっては当然推進していくべき重要事項ですが、現場の従業員に至っては、必ずしも理解が進んでいない可能性があります。
なかには、「法定雇用率」についても、良く知らないという人は少なくないでしょう。
また、障害者が周囲の協力のもと、力を発揮できる職場は、障害者のみならず健常者にとっても働きやすい環境になりますが、こうした認識は、自然に得られるものではありません。
まず、職場全体に対し、なぜ障害者雇用が必要なのか、それによってどのような良い影響があるのかといった、
障害者雇用に関する全般的な知識について、研修などで理解を深めると良いでしょう。
さらに、障害者が配属される部署やグループに対しては、障害者本人の特性や能力、それに応じた仕事内容や配慮する内容などをしっかり伝えておくなど、現場の混乱を最小限に抑える努力が必要です。
障害者が働きやすい企業づくりのために
最後に、障害者雇用を円滑に進めるために、企業として講じておくべき具体的な対策について、解説していきます。
採用方法や受入態勢の見直し
障害者の雇入れを決める際、合否決定において大きな比重を占めるのが、採用活動における面接ではないでしょうか?
しかし、限られた時間のなかで、自社に合った人材かどうか判断することは簡単ではありません。
健常者の採用面接においても、短い時間内でその人のすべてを知ることは不可能ですし、障害者の場合は障害の特性に対してどの程度まで企業として配慮できるかを考えなければならないため、判断はより難しくなります。
そのため、採用面接を行う際は、事前情報を揃え、精査しておくことが重要です。先に提出された履歴書などには必ず目を通し、どのような障害があるのか、一般的にその障害ではどのような問題を抱えやすいのか、どのような配慮が必要になるかなど、ある程度面接の前に把握しておくと良いでしょう。
もちろん、障害者であるという色眼鏡で求職者のことを決めつけるのは間違っていますが、
企業側が的確な質問をしたり、求職者からの質問に答えるという点においては重要です。
これらの情報を踏まえて、現在の体調や職場に求める配慮などを詳しくヒアリングし、自社で活躍してもらえる人材かどうかを判断しましょう。
支援機関との連携強化
障害の種類や程度によって、障害者が抱える困難はさまざまです。このような困難が、職場環境におけるものであれば、企業の努力によって最大限取り除くことができますが、私生活における困難だとすれば、企業にできることは限られるでしょう。
しかし、私生活のストレスが原因で体調が悪化すれば、障害に関連する症状のコントロールも難しくなり、結果的に仕事にも影響を及ぼすケースも少なくありません。このようなときは、支援機関と連携することで、解決できる場合があります。
支援機関には、
「障害者就業・生活支援センター」や「就労移行支援事業所」など、
直接企業の担当者と連携できる機関と、医療機関や福祉事務所など他の機関と連携し、間接的にサポートしてくれる機関があります。
障害者を雇入れる際は、事前に各機関との関係をつくっておくと良いでしょう。
職場への啓発活動
障害者雇用促進法における法定雇用率は、企業規模によっては、ほんの数人雇入れれば達成することもあり、配属部署以外では障害者の存在があまり周知されていないケースも少なくありません。
また、常用労働者が1000人規模のような企業では、障害者雇用を専門的に受け入れる特例子会社を設立することも多くなっています。
このように、限定的な部門のみで障害者雇用を行うことは、法定雇用率の達成には貢献するものの、障害者の働き方における選択肢の幅が狭まる可能性もあるでしょう。障害者が将来的にさまざまなキャリアプランを描けるように、社内のどの部署でも受け入れられる態勢を整えておくことが大切です。
せっかく障害者雇用を推進するのであれば、一部の部門以外は「我関せず」といった状態にならないように、
職場全体への啓蒙活動を行うと良いでしょう。
まとめ
障害者雇用に対して門戸を広げる企業は、ここ数年で格段に増加しています。
しかし、中小企業をはじめ、法定雇用率の達成が難しいと考えている企業も少なくありません。
一般に、障害者を雇入れるためには、企業は環境の整備やサポート態勢の構築など、大きなコストがかかると思われがちです。
また、障害者は軽微な仕事しか任せられず、つきっきりで手伝わなければならないという勘違いをしている事業者が多いのも事実です。
実際は、障害者を雇入れる際は、さまざまな助成制度を活用することができ、法定雇用率を達成すれば調整金を得ることもできます。
さらに、障害者といっても得意分野では健常者と同等以上のパフォーマンスをあげる人や、
環境さえ整えれば素晴らしい能力を発揮できる人も少なくありません。
また、障害の有無に関わらず人材を受け入れ、丁寧にサポートしていく職場を構築することは、健常者の従業員に対しても優しい職場づくりに繋がるはずです。今一度自社の課題を洗い出し、より良い障害者雇用の形を目指してみてはいかがでしょうか。
H&Gでは、障害者雇用に関するノウハウを蓄積しています。障害者雇用をご検討の方は、長期雇用実績のあるH&Gまでぜひお気軽にご相談ください。